1999~2000年ごろ、まだ存命でテレビに出演していた番組をたまたま目にして「へー面白そうな作家だな」と記憶に留めているうちに「え!亡くなったのか」と思って早くも20年、ようやく読む機会に巡り合わせた。
本のタイトル | 怪異投込寺 |
著者名 | 山田風太郎 |
出版社 | 旺文社文庫 |
表紙は、小宮山逢邦(こみやまほうぼう)氏で1946年生まれだから、まだまだご健在かと。オフィシャルサイトもあって、妙に嬉しい。旺文社文庫の山田風太郎作品は、この方が手がけているようだ。
何がどんな風に生々しいのか?
収録されている中編は以下のとおりだが、旺文社文庫書き下ろし作品なのだろうか?
- 怪異投込寺
- 芍薬屋夫人
- 獣人の獄
- お江戸英雄坂
- 大谷刑部は幕末に死ぬ
個人的には「怪異投込寺」が印象的だったけど、引用はタイトルも生々しいこちらから。
獣人の獄
ストーリーも欲望をむき出しにしたシチュエーションを醸し出しているのだが、はっきり「ぎらぎら」と言い切る場面が少なくない。
右京の眼はぎらぎらとひかっていたが、見返す彦八郎や蔵人の眼も、それに劣らず異様なひかりを放っていた。それ以上、聞くまでもなく、以心伝心の眼であった。
とくにこの作品は、人間性?を描くというより、人間がもつ良くも悪くも獣っぽい一面をクローズアップさせて話を進める。
先刻、菊屋蔵人が、本心をむき出しにして口を切ったといったが、それは彼がもはやそれでもかまわぬと見てとったからだ。これが細呂木右京の本心の顔か。ーーのっぺりと気品のある面長の容貌が耳まで口を裂いて笑うのは、人間ではないもののような物凄さであった。
初・風太郎作品なので一概に言い切れないが、この文庫本に限っては、幕末に近い時代における欲をギラギラと描いている。
叱咤されて、稲城彦八郎の学者らしい重厚な顔も、急に腐肉の崩れるように笑い出した。
(略)ただその女が欲しいの一念からなのであった。
いくらなんでも、最初から彼らがそんなに堕落した人間であったわけではない。そもそもの始まりは、純粋な志であったのだ。それが変わったのだ。その女を一目見たときから、彼らは魔の風に吹きくるまれてしまったのだ。
それでも、この作品はちょぴっと救いが感じられる結末だった。
「大谷刑部は幕末に死ぬ」はかなり辛く、刑死の場面など読めなかったよ… と同時に、幕末の薩摩人ってやっぱり少し嫌かなと感じた。まあ、あの強引さ(ずーずーしさ?)が日本を引っ張った一面もあったのかもしれないけど、などと。
この1冊でした(Amazon)
こちらもすでに古書かな?