タイトルは美食だけど、ヘッダーには怪しそうな画像を探してみた。今はコロナ禍で上海の夜はすっかりを鳴りを潜めているのだろうか。2007年に訪れた上海だけど、いずれの時代も怪しそうな雰囲気がいいなと。
文庫概要
タイトル | 美食倶楽部 |
著者 | 谷崎潤一郎 |
編者 | 種村季弘 |
出版社 | ちくま文庫 |
副題として「谷崎潤一郎 大正作品集」とある。
ドイツ文学者で、幻想小説とか怪しいっぽい作品集の編者としてお名前を見かけるので、お名前がかかっているとつい手が伸びる。久しぶりに谷崎読みたくなったので、変わりダネっぽいこちらを読んでみた。
ドイツ文学や温泉エッセイなど、池内紀氏とジャンルが被るので、名前は全く類似性ないのだが(ときに)混同してしまう。
内容紹介
短中編の間くらいの長さ、谷崎氏の変な?部分が凝縮されている感じがてんこ盛りの趣であるが、タイトルの美食倶楽部は(確かに)美味しいものを食べる話ではあるものの、本質的なものは食欲という欲の行く末かな。
- 病蓐の幻想
- ハッサン・カンの妖術
- 小さな王国
- 白昼鬼語
- 美食倶楽部
- 或る調書の一説 ーー対話
- 友田と松永の話
- 青塚氏の話
- 解説 巨人と侏儒 種村季弘
美食倶楽部
要するに、暇と財を持て余すおじさんたちが、それでも懲りずに美食を追求するのだが、そこで中国料理が出てくる。確かに、大正時代だとまだまだ日本国内で食せる西洋料理は限られていただけに、興味はそそられる。が!谷崎は慾を満たすには、舌だけでなく全身の感覚へとストーリーを引っ張ってゆく。
二四より
その時の会員の心持を、読者は宜しく想像してみなければならない。ーー彼らはその時までに散々物を喰い過ぎている。(略)彼らの胃袋は相当に膨れ上がっている。彼らの手足は、飽満状態かる来るものうい倦怠を感ぜざるを得ない。(略)それが突然暗闇へ入れられて、長い間立たせられるのであるから、一旦鈍くなりかけた彼らの神経は、再び鋭く尖って来る。
友田と松永の話
横浜と奈良田舎を対比させ、パリなどの快楽と日本の侘び寂びというのでしょうか、後の谷崎の「陰翳礼讃」につながりそうな世界とをリンクさせる話で、(ネタバレにもなるけど)それを友田と松永という人物にも関連づけ、構成的にも楽しく読めた。
「東洋人の慎しやかな頭ではほとんど想像することの出来ない絢爛なもの、放埒なもの、病的なもの、畸形なものーーあらゆる手段と種類とを尽くした、眼の眩くような色慾の渦巻、ーー僕の見た巴里は、全く僕がこの世にあり得ない淫楽の国として、わずかに夢に見ていたところのそれであった。(略)」
選んで書かれる単語も、なんとなく雰囲気が現れるから、漢字とひらがなを組み合わせる日本語は面白いなと思う。
「(略)僕は祇園や新町の色里のことも想い出したが、あの神秘的な、つつましやかな三絃の音色、余情を含んださびのある唄声、かつてはゴマカシのイジケた趣味として排斥したものが、不思議にも今は、それを想像しただけでも荒んだ神経が静まるような感じを覚える。(略)」
いずれにせよ、美味しいと感じて食べることができるのは幸せ。