20年来読みたいと積んでおいた文庫本の山をコツコツ取り崩しているのですが、早くもベスト・エッセイを読んでしまうことに!
本のタイトル | 田中小実昌ベスト・エッセイ |
著者名 | 田中小実昌 |
出版社 | ちくま文庫 |
露地での撮影は禁止されているらしいが、この程度なら許してもらえるかな…
やはり小実昌氏の新宿ゴールデン街の語りに味わいが
独特な雰囲気が残る街、自分は遠巻きの位置から気になっているものの、性格的には夜が苦手なので行ってみたいとは(正直)思わない。だけど、そこで繰り広げられる人間模様の話を興味深く読んでしまうのは、やはりコミさんの語り口調のせいだと思う。
構成は大きく2部構成、前半のⅠはさらに5つのテーマに別れ、後半のⅡはタイトルのとおりで、コミさんの人生模様が色濃く出ている。
Ⅰ
- 1 ひと
- 2 おんな
- 3 旅
- 4 映画
- 5 コトバ
Ⅱ
- 勤労奉仕から動員へ
- 父と特高
- ハミだした両親
- 濃いインキの手紙
- 昭和19年…(抄)
- G線上のアリァ(抄)
- 張っちゃいけない親父の頭
- やくざアルバイト
- 横田基地のバンブダンプ
- 不動産屋、そして医学研究所
- 葬式はしない
「おんな」では、妻娘や妹など親族も登場するが、妙に艶めかしくならずそれでいて女の話になっているのが、やはりコミ氏ならではかなと。これまでにも、他の著書を読んでいるので、当然既読感があるわけだが、今回わりとフレッシュに感じたのは翻訳の話。
5 コトバ
「翻訳あれこれ」
サローヤンって名前が妙に自分の頭に残っていて、どこで仕入れた名前かな?と思っていたけど、コミ氏の押しだったのか!
しかし、ベン・ヘクトの短編は、つまりはストーリイ―のおもしろさで、ウィリアム・サローヤンの『わが名はアラム』の短編には、それまで、ぼくが読んだことのない、ふしぎな、しかも生々しいおもしろさがあった。
サローヤン、要チェックだと思った矢先、行きつけの古書店で早速拾ってきました。
「哲学ミステリ病」
もうひとつ新鮮に思ったのは、ミステリーという言葉の話。
しかし、ミステリという言葉はいい言葉だ。ミステリは謎ってことだもの。推理小説というのとはちがう。探偵小説でもない。ただミステリアスな展開で読ましていけば、りっぱなミステリだろう。
自分もミステリー=推理 or 探偵小説という先入観があったが、氏が指摘するとおり、コミ氏がミステリアスな展開を意識して訳しているのであれば、オチを語ることに注力する推理 or 探偵小説を意識して訳したものとは、きっと違い味わいがありそうだと思った。
だけど、今後コミ氏の翻訳本を読む機会に巡りあえるかな?
張っちゃいけない親父の頭
こちらはバナナの叩き売りなど(もはや自分も生口上を聞いた記憶はあまりないけど)語りで人にモノを購入させてしまう術について、語っていた。コミ氏はこの語りに幼少期から魅了されていたらしい…。
いまは、口上(たく)をうけるテキヤがすくなくなって、高市(お祭り)でも、テキヤがタコ焼とか焼きイカとかたべものを売っている。まえは、口上(たく)をつけるのがテキヤで、だまって、たべものなどを売るのは、ジンバイとよばれてる土地の素人(ねす)のひとたちだった。
「香具師の旅」も必読だなと改めて思ってしまった次第です。
まだまだ、コミ氏の積読は解消しないなと。