武田泰淳の作品から


「目まいのする散歩」

最初はエッセイ系かと思っていたら、どうもご本人は小説の感覚らしいが、多分実体験に基づいた私小説よりな小説なのかなと。

こちらも口述(書くのは百合子夫人)であるし、妻の言動あっての面白さが作品を支えている気がした。なお、目次は下記のとおり。

  • 目まいのする散歩
  • 笑い男の散歩
  • 貯金のある散歩
  • あぶない散歩
  • いりみだれた散歩
  • 鬼姫の散歩
  • 船の散歩
  • 安全な散歩?
    • 解説 後藤明生

大病を患った後だけに、つねにフラフラ気味のようであり、その感覚で感じたことを散歩という行為に絡めて描いている。最後の2つは船でむかったロシア旅行の旅物語であるが、むしろ百合子夫人の「犬が星見た ロシア旅行」を読みたくなった。

結びの文が良かった。

地球上には、安全を保証された散歩など、どこにもない。ただ、安全そうな場所へ、安全らしき場所からふらふらと足を運ぶにすぎない。

他の作品

未読リスト

この辺は、いずれ読んでおきたいかも。

  • 富士
  • 十三妹(シンサンメイ)
  • 風媒花

他、短編集でもいい。

「新・東海道五十三次」

妻、百合子夫人が運転する自動車での旅日記であるが、妻あっての面白さですね。

まだまだ泰淳作品の奥行きが掴みきれてない自分だが、関係者の著書を読むことで掴み始めている(かも)。

「本の魔法」司修

白水社のハードカバー、古書店で300円。救済せずにいられなかったのですが、白水社は自分好みの作品が多くて困る。

装丁家として存じていたのだが、芥川賞候補になっていたとのこと。それなだけに、作品への思い入れもなかなか読み応えありまして気になる作家も増える。
ラインナップは下記のとおり。

    • 藍–『杳子・妻隠』古井由吉
    • 朱–『富士』武田泰淳
    • 闇–『埴谷雄高全集』『埴谷雄高ドフトエフスキイ全論集』埴谷雄高
    • 鉛–『硝子障子のシルエット 葉篇小説集』『死の棘』島尾敏雄
    • 岬–『岬』中上健次
    • 肌–『なつかしい本の話』江藤淳
    • 緑–『癇王のテラス』三島由紀夫
    • 銀–『月山』森敦
    • 白–『白夜を旅する人々』三浦哲郎
    • 土–『修羅の渚–宮沢賢治拾遺』真壁仁
    • 空–『明恵 夢を生きる』河合隼雄
    • 灰–『私のアンネ=フランク』松谷みよ子
    • 紅–『河原にできた中世の町–へんれきする人びとの集まるところ』網野善彦+司修
    • 雪–『比良の満月』『寺泊』水上勉
    • 青–『小川国夫作品集』『弱い神』小川国夫

読み始め早々に出てくる、「『富士』武田泰淳」では「目まいのする散歩」もしきりに引用されていて、この作品を読みたくなって読んでみた。

「遊覧日記」武田百合子

もともと、自分は夫より妻の作品の方からアプローチでした。

百合子夫人の作品と言えば、中公文庫「富士日記(上・中・下)」(このブログでの紹介はない)ですな。今の時代であれば、ブロガー向きな感性をお持ちだったのではと。彼女の作品で登場する夫としての武田泰淳として興味を抱いた次第である。

文学者夫婦で混同するのが、坂口安吾・三千代夫妻。総合点?では、武田泰淳・百合子夫妻の方が上回っているかなという感じです。