洲之内徹氏による美術話(評論ではない)、何度でも読みたくなる面白さは何なんであろうか?
本のタイトル | 帰りたい風景―気まぐれ美術館 |
著者名 | 洲之内徹 |
出版社 | 新潮文庫 |
画像は洲之内氏が文中でも触れているように、何度か訪れた長野県の夏の小布施町(また行きたい)。
有名無名ではなく洲之内氏が見た作品を見たいと思う
気まぐれの意味を調べてみた。
気分が変わりやすく、また、予測も付きにくいこと。 しばしば、他者を翻弄する性質を伴う。
洲之内氏が自らの命名したと思うけど、的確に特徴を捉えているなと。そして、文庫本の要約から
見ることの喜びに恵まれたがゆえに、描かねばならぬという宿業を背負った画家たち……。彼らとの出逢い、その作品との出逢いのなかに、人生の苦悩と至福とを見つめる美術随想33話。
その33話は次の通りで、カッコ内は自分の備忘録も兼ねて言及している作家と関連した地名を列挙してみた。概ね著者が対象の画家を語るために関連付けた地域(だいたい出生地とか居住地)である。
- 三浦さんと小野クン(画家:三浦逸雄、小野隆生)
- 帰りたい風景(水墨画:佐伯和子)
- オートバイに乗った画家(挿絵:佐藤泰治)
- 山路越えて
- 鶴のいる診察室(版画:小林朝治/長野県)
- 三年目の車(画家:池田一憲/島根県)
- 脱線の画家(画家:横井弘三/長野県)
- 同行二人(画家:宮忠子/岡山県)
- 海辺の墓(画家:小野幸吉/山形県酒田)
- 続 海辺の墓
- 凝視と放心(画家:木下晋/新潟県)
- 明治座あたり(画家:曾宮一念/東京都日本橋浜町)
- 草上の空腹(画家:原精一/東京都浅草から祖師ヶ谷)
- 眼と耳と(画家:曾宮一念)
- 千六百万分の一(漆工:奥田達朗/石川県輪島)(画家:吉永邦治/大阪府)
- 貧乏眼鏡(画家:松原亜也)
- 悪について(平沢貞道)
- ゴルキという魚(画家:松田正平/千葉県鶴舞)
- 大正幻想(画家:柳瀬正夢/愛媛県)
- 続けて柳瀬正夢のこと
- 中野坂上のこおろぎ(画家:藤牧義夫/群馬県館林)
- 銃について(版画:加藤太郎)
- うずくまる(画家:鳥海青児、喜多村知)
- 一枚の絵(画家:草光信成)
- 共通入浴券(画家:児嶋凡平、村山槐多)
- オールドパア(画家:松本竣介)
- 手のことと下駄のことと詩のことと(画家:松本竣介)
- チンピラの思想(画家:柳瀬正夢)
- 羊について(画家:桜田晴義/長野県)
- 自転車について(画家:松田正平/島根県祝島)
- 墓を見に行く(画家:池田亀太郎/山形県酒田⇒「気まぐれ美術館」もうひとりの鮭の画家)
- 虫のいろいろ(再描画:立石鐡臣)
- 青い、小さな、スーッとするような絵(海老原喜之助「ポアソニエール」⇒「絵のなかの散歩」)
- 再びあとがきということではなく
脱線の画家
なんと!自分が愛読する吉田健一氏への言及がある。この「帰りたい風景」では酒田と長野に関する話が印象に残った。
偶然、吉田健一氏の『酒・肴・酒』という本を見ていたら、冬の酒田の名物は鱒だと書いてあった。学がないというのはしようのないものである。
この章では、酒田の後に小布施ことにも触れている。
長野に三日いたとはいっても、行った晩は小布施の宮沢さんの案内で山田温泉に一泊、二日目は、やはり小布施の、桜井甘精堂主人の桜井さんの世話になって湯田中温泉に泊まり、長野市で泊まったのは最後の夜だけであったが、その二日目の昼間、私は桜井さんの車に乗せてもらい、信州新町の美術館と、近くの山の中の水内小学校へ、横井弘三の絵を見にいった。
なるほど、桜井氏はパトロンですね。ここでは触れてないですが、桜井さんのその車は… ベンツ。これが書かれた当時1970年前後?における地方でベンツに乗るのは、やっぱりパトロンらしいかな(なんて)。
山形県の酒田、酒田行ってみたい…
再びあとがきということではなく
土方定一氏が私を彫刻家の清水九兵衛氏に紹介して、
「この洲之内クンというのは文学青年でね、文章がうまいのよ、だから変なことをぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅと書いて、うまあく読ませてしまうのよ」
と言った。
なるほど!と思った。”気まぐれ”という言葉に違わず、洲之内氏の記憶に準じて思わぬ方向に話が二転三転するものの、結局は目的に話が落ちてしまうとこに、読者としては読まされてしまうのだなと。
こちらもどうぞ!
小布施に行ったときのブログ、このとき訪れたのは甘精堂ではなく竹風堂だったです。小布施はかつて葛飾北斎も滞在していたなど、地味だけど文化的に味わい深い土地で、自分も過去3回行ったことあるけどまだまだ行ってみたいとこ。
多分、また読む。