東海道新幹線誕生前の特急列車だと、東京〜大阪は七時間半かかっていたらしい。それだけ時間があれば、何かしらドラマも展開されるなと。
ちなみに画像は本物の引退して余生を過ごす東海道新幹線0系。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
本のタイトル | 七時間半 |
著者名 | 獅子文六 |
出版社 | ちくま文庫 |
物足りなりないほど隙がなく
獅子文六氏の著書は「珈琲と恋愛」に続いて2作目、こういう感想を述べるのも厚かましいが… 小説素材が新鮮で話題性があり、人間関係が巧みに織り込まれ、まさに時代性を捉えた小説の醍醐味が満載だなと。
素材が素材だけに、世の中が便利になれば古びてくるけど(ここでは新幹線にもはや食堂車はないように)、それが逆に懐かしい時代を思い出させてくれる。この懐古が見直され、また読まれるようになっているのかなと。
東京〜大阪間の特急列車における七時間半に起こる恋の鞘当(さやあて)のストーリーなので、非常にわかりやすい。
この小説のメインな主人公は、バリバリの関西(大阪)女性
東京の娘には、こういう執念はないかも知れないが、商人の都に生まれたおかげで、一見、温和そうな彼女の胸の底に、消しがたい火が燃えているのである。
よくある、そのライバルの東京女性は、没落した元(貧乏)華族出身
そして、男をオモチャにするほど、面白いスポーツは、絶対に他には考えられないと、思い込んだのである。
と、これまた明確なキャラクターが立って?いる。
両者とも若い女性の普遍的な気持ちをストレートに行動に出しているだけで、けして意地悪く描かれているのはない。そういう点では、読者にも観客にも共感を得られるだけに、ドラマ化や映画化にもしやすいのではと思う。
一方、懐古を感じさせる部分では
そこへいくと、熱海を中心とする後者の発展はめざましいもので、泉越トンネルを出た途端に、金銭的風景が開けてくる。
とあるが、現在の熱海では、金銭的風景のその後… かなと、しみじみと思ってみたり。加えて、この小説は「週刊新潮」で掲載されたらしく、小道具として登場させるような配慮を見せたり。
「それが、あなた、社長のあたくしも、事務員たちも、皆、女性なんでございます。一切、男気なしで、そんな仕事を始めたのが、珍らしいとかで、いつかも、”週間慎重”へとりあげられまして……」
こういう小説を読むと、時代を感じさせる部分と、時を経っても変わらない普遍的な部分の対比がまた面白かったりする。