佐藤泰志作品を続けて読む
石炭と海が身近にあるということで、函館市を想定しているようだ。しかし、自分の手元にあった海が身近に感じられる画像は早春の伊豆下田なので、寒々とした感じが薄い… と先入観もあるが北海道の底冷えが伝わらない。
本のタイトル | 海炭市叙景 |
著者名 | 佐藤泰志 |
出版社 | 小学館文庫 |
詩集のようで写真集のようで
叙景とは「風景を文章に書き表すこと」、いい単語だな。この単語を知ったことだけでも大きな収穫。
- 第一章 物語の始まった崖
- 第二章 物語は何も語らず
大きく二章だてで、その各々に登場人物1人ごとのストーリーが描かれている群像形式&自分好みな仕立て。
第一章 物語の始まった崖
- 1 まだ若い廃墟
- 2 青い空の下の海
- 3 この海岸に
- 4 裂けた爪
- 5 一滴のあこがれ
- 6 夜の中の夜
- 7 週末
- 8 裸足
- 9 ここにある半島
小説の世界観がわかりやすい文を引用。
- 1 まだ若い廃墟
元々、海と炭鉱しかない街だ。それに造船所と国鉄だった。そのどれもが、将来性を失っているのは子供でもしっていた。(略)街は観光客のおこぼれに頼る他ない。
ここのどこにポジティブを見出すか。
- 9 ここにある半島
(略)海炭市の人々の心にひとつの輪郭を与える場所。確かにその言葉は間違いとはいえないかもしれない。だけど、悦子より三歳だけ歳上の、妻子持ちの二十七の男から、そんなもっともらしい台詞を聞くと、馬鹿らしくなる。(略)思わず、そんなことは奥さんにでも話してよ、と彼女はいってしまった。
不倫がテーマではないが、人間関係も少しねぢれている。このねぢれ感が、小説や映画だと大きなストーリーに発展してゆくのね。
第二章 物語は何も語らず
- 1 まっとうな男
- 2 大事なこと
- 3 ネコを抱いた婆さん
- 4 夢みる力
- 5 昴った夜
- 6 黒い森
- 7 衛生的生活
- 8 この日曜日
- 9 しずかな若者
自分はこの短編が気に入った。
- 1 まっとうな男
翌日、警察からの知らせで、 寛二が古くからある病院に一時的に収容されたという知らせを受けとった時、職業訓練校では、やっぱり、といいあった。寮生にもすぐに知れたが、十日もたつと誰も時々しか思いだせなくなった。
漁師の友達は、寛二の女房から話をきかされた。なあに、あいつは昔からああだった、と彼はつぶやくようにいった。二度、いった。
寛二というおじさんが、少し変わった言動で病院に収容されるのだけど… 不条理な世間に妥協しない姿勢=変わった言動と解釈してしまうと、いたたまれないが、みなそれをわかっていて、あえて寛二を特別扱いせず、逆に受け流している姿勢がよいのではないかと。
こちらもどうぞ!
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』っで「函館3部作」ですと。まあ、このような作品群好きっす。やっぱり、映画を見てみたいっす。
『海炭市叙景』(1991年12月)
映画公開:2010年12月18日
監督:熊切和嘉
出演者:谷村美月
加瀬亮
山中崇
南果歩
小林薫