“幻想的な作風”という先入観が自分の頭に…
文庫概要
タイトル | 花闇 |
著者 | 皆川博子 |
出版社 | 河出文庫 |
カバー装画◎山科理絵
著者は1930年、旧朝鮮京城市生まれ。ご存命で「幻想的なミステリー」系列に連なる方のようだけど、こういう歴史のちょとした幻想性?で人の生きざまを描く話は大好き。
以前「みだら英泉」も楽しく読めただけに、次の機会をうかがっていた。
内容紹介
史実に基づきつつも、著者の想像力と描写で読ませてくれるタイプのもの。
序章、Ⅰ~Ⅵ、終章という構成で、序章&終章で過去(Ⅰ~Ⅵ)をしのぶ構成になっている。
- 三代目 澤村田之助
- 五代目 尾上菊五郎
- 九代目 市川團十郎
主人公は、田之助だが、盛り上げる菊五郎と團十郎も登場。後者の二人は、今にも続く名跡だけど途中養子縁組があるから、血のつながりはなさそう。それにしても、今もむかしも芸の継承だけでなく、人間関係も引きずり、いろいろと大変そうだ(それだけに、物語になるのだろうけど)。
Ⅲ
Ⅰ~Ⅵ構成なので、概ね起承転結に当たると思う。そのⅢに当たる部分だけに、いよいよ結末に向けての凋落が…
白粉を落とすにつれ、血色の悪い素顔があらわれてくる。この十二年間、男として育とうとする躯を、女の姿に嵌め殺すことにつとめてきた。(略)
殺しぬいた”男”は、身内にひそんで陰湿に復讐の機を狙う。安女郎相手の執拗な責めともなり、茶碗であおる大深酒ともなる。同じ大部屋役者でも、中二階は三階より酒ぐせの悪いのが揃っている。
本来の女なら、顔を白壁のように塗りこめはせぬ。
女形を観る側は単純に、男が女を演じているとしか思わないかもだけど、歌舞伎役者にとって身も心も芸のために捧げるとなれば、こういう「はめころし」もあり得るのかなと。
可憐な娘が、実は刺青入りの美貌の賊。その、娘から男、無垢から悪への、一瞬の戦慄的な変貌を目前にした見物は、倒錯した二重うつしの影像に酔わされた。
その一方で、歌舞伎の醍醐味(この作品においては演じる側にとっても)かなと。
なお田之助とは女形の主人公で、贔屓筋(金銭的負担をしてくれるパトロンですな)となる相政との出会いの描写である。
しかも、田之助は、他の贔屓客に対したときのような、甘やかな濃艶な色気を、相政の目からはむしろかくそうとしているふうだった。
(略)色で誘えば、相政は、手厳しくはねつけ、二度と田之助をよせつけないのではあるまいか。そう思わせる雰囲気を、相政は持っていた。
相政とは、相模屋政五郎(1807年(文化4年)~1886年(明治19年))でwikipediaによれば、
幕末から明治にかけての侠客、口入屋
とある。侠客(きょうかく)とは分かりにくいけど、ネットで調べてみれば
義侠・任侠を建て前として世渡りする人。
とある。決してやくざ者や無法者とは異なるとのことで、人間ができてないと勤まらないやつなのかなと。積読に積まれている次の本にも描かれているらしいから、早々に読みたいな。
子母沢寛「游侠奇談」(旺文社文庫)
「花闇」のような本を読み歌舞伎役者のことに詳しくなると、現在の歌舞伎役者や演目への興味も深まり… 沼に陥るのかもしれない。今後も頑張ってNHKの歌舞伎番組で知識を蓄えたいかなと。
ちなみに、最初の皆川作品はこちらだった。
タイトルに「みだら」と淫ら?猥ら?な言葉づかいがあるものの、決して淫らなものではない。