2021年は開高作品にがっつり出会いたい
なかなか興味そそるラインナップが多い河出文庫、好きな作家だし表紙とタイトルで手にしてしまう。
本のタイトル | 魚の水(ニョクマム)はおいしい |
著者名 | 開高健 |
出版社 | 河出文庫 |
ヘッダーの画像は、この文庫にも収録された「眼ある花々」の文庫本。
副題は「食と酒エッセイ傑作選」とある
自分の好みだけで物を申して恐縮だけど、開高氏の食と酒、釣りやベトナムなどの旅の話は好きだ。我ながらなんで好きなのかは、エッセイを読んでいるうちに少しづつわかって気がする。
構成は次のとおり。
- Ⅰ 魚の水(ニョクマム)はおいしい
- Ⅱ ペンと肝臓
- Ⅲ しらうお
- Ⅳ 眼ある花々
- Ⅴ 詩と洋酒
Ⅳは初出「婦人公論」1972年1月号~12月号で、中公文庫で文庫本「眼ある花々」になっている。たまたま手元にあり、ヘッダー画像がそれである。
表紙が「山口はるみ」さんというパルコ文化を代表するイラストレーターということ。先日、そのパルコ文化を担ったイラストレーターが手がけた本を集めた企画展で入手した1冊でもあり、この偶然的な巡り合わせに喜んでいる。
眼ある花々
- 君よ知るや、南の国
- 一鉢の庭、一滴の血
- 指紋のない国
- 茶碗のなかの花
- 寒い国の花
- 南の海の種
- ああ!……
- ソバの花
- 死の海、塩の華
- バリ島の夜の花
- 寒い国の美少年
- 不思議な花
これは1970年代、観光ズレしてない漁師宿を求め、冬の福井で泊まった宿でのお話である。
- 寒い国の花
「スイセンは冬、花が咲くの?」
「ええ。雪のなかで咲きます」
「それは知らなかった」
「あとでお風呂にいれておきましょう。ショウブ湯は五月ですが、ここでは真冬にスイセンをお風呂に浮かべるんです。茎の匂いも花の匂いも、ちょっといいものですよ」
(略)
そくはたらいてきたらしい、厚くて大きな手を静かに膝にのせて若主人がいろいろと教えてくれる。風の容赦なさ。海のすさまじさ。そして精が棲みついていそうな闇の群れ。酒がベタベタといやらしく甘くなくてイワナの棲む渓流のように剛直で淡白な辛口であることもこころをほぐしてくれる。
厳しいなかに垣間見れるロマンチストな感じがいい。
開高氏は一見可憐な花を、こういう風に眺めているから、このようなエッセイができたと思う。
- 不思議な花
植物の寡黙だけど執拗をきわめた精力の殿堂のような繁茂と破壊力をまざまざと私は見ているので、つい用心深くなってしまうのである。
それにしても、こういう巡り合わせで、つい文庫本を買い集めてしまうとキリがなく….、それでいて、楽しくて仕方がない。
エッセイ傑作集なので、どこからでも気軽に読めるけど、編集者の意図を組み、章ごとで選ぶのがよいかなと思う。読むと感じるが、開高氏はどこまでも身体で感じて納得したい人だけに、書かれている内容がとても実感できるのが、自分が惹かれる理由だと思った。