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タイトルの「タブロイド」がいい
それにしても、エルロイはタイトルのつけかたも絶妙だ。
日本語だと日刊紙かもだけど、この大きさやその言葉にはどことなくスキャンダルな匂いもないか? 政治が全て正しく清らかとは限らないよね。
本のタイトル | アメリカン・タブロイド(上・下) |
著者名 | ジェイムズ・エルロイ |
訳者名 | 田村義進 |
出版社 | 文春文庫 |
いざ<アンダーワールドUSA三部作>を読了する
450ページほどの文庫本上下2冊の長編っす。エルロイは、これくらい長さがないと盛り上がらないと知りつつ、一気に読まないと落ち着かない中毒性がある。そして、実は再読。
エルロイ作品では、「暗黒のL.A.」4部作より先に読んでる。「アメリカン・タブロイド」を読み、もっとこのエルロイ・ノアールを知りたくてL.A.4部作を読んで、こちらに戻ってきた。再読なので、大まかなことは知っているのに、食いついてしまった。積読たまっているのに、再読ばかりしている。
半分以上にあたる下巻の半分までは第一部、以降状況は急速に展開する。
- 第一部・強請(ゆすり)1958年11月〜12月
- 第二部・共謀 1959年1月〜1961年1月
- 第三部・ピッグス湾 1961年2月〜11月
- 第四部・ヘロイン 1961年12月〜1963年9月
- 第五部・契約 1963年9月〜11月
まずは冒頭より。
この開き直りが自分に期待させる。
アメリカが清らかだったことはかつて一度もない。(略)
時代を裏で支えた悪党どもと、彼らがそのために支払った代価を語る時がきた。
悪党どもに幸いあれ。
第一部・強請(ゆすり)1958年11月〜12月
ヒューズが語る。
ヒューズとは、デカプリオ主演映画「アビエイター」のあの人で、変わり者富豪ですな。予め人物関係を把握しておくと、ストーリーの真実性は増大する!
「(略)知ってのとおり、ケネディの親父は二十年代からわたしの商売仇だった。正直なところ、あの一家が憎くてならない」
そしてフーヴァーも、デカプリオ主演映画「J・エドガー」のあと人、初代FBI長官でこれまた変わり者。
裏を読むのはむずかしくない。フーヴァーは嫉妬しているのだ。これまでフーヴァーはことあるごろに”マフィアは存在しない”と主張してきた。(略)ボビー・ケネディはそれに異を唱えた。
JFK(お兄さんの方ね)の暗殺までを描いているので、ケネディ家の面々は押さえておくべき人物たち。彼らに絡んで救いがたい面々が登場するが、そのうちの1人(ウォード)はかろうじて理性を取り戻し、ウォードの存在があったから自分はわりと彼の行末に期待して結末まで楽しめた。
傲慢の罪の許しを請う。自分のために他人に大きな犠牲を払わせてしまったと神に報告する。いまでは危険を愛していると神に報告する。危険を恐れるよりも、危険に惹きつけられていると神に報告する。
それと、悪い奴らもJFKの髪型に憧れ、ことあるごとに「ジャック・ザ・ヘアカット」という。
ピートは親指の関節を鳴らした。「あの髪型には惹かれる。だが、大統領の器とはとうてい思えないね」
「大統領に能力は必要ない。アイゼンハワーを見てみろ。やったことといえば、ヨーロッパに軍隊を送りこんだことと、優しい叔父さんのような顔をしていることだけだ」
第三部・ピッグス湾 1961年2月〜11月
悪い奴らにまみれたり、距離をおいたりして救いを求める人物。
ウォードはみずからに沈黙を課し、司教の仕事を手伝った。
酒を断ち、身体を鍛えた。暗号学の本を読んだ。祈りの言葉を唱えているうちに、誰を恨み、誰を許すべきかわかってきた。
第五部・契約 1963年9月〜11月
先にふれた、ヒューズやフーヴァー以外にも、実在した大物マフィアが何人も登場するのだけど、wikipediaで経歴を見てみると概ねみな幸せ?な死に方をしていない…。因果応報で片付ける話ではないが、いつの時代でもアメリカの犯罪小説(クライム・ノベル)は謎だけが残る歴史だなと。
思惑は複雑に入り組んでいる。が、政治的には幼稚だ。
(略)
ケネディ暗殺は不可能ではない。計画者も実行者も逃げおおせることができる。ボビーの反マフィア十字軍は骨抜きにできる。
だが、そこから先は予測できない。得体の知れない巨大な力のなかに、それは溶解していくような気がする。
解説を通して著者の言葉を紹介しておく。
「アメリカのクライム・ノヴェルに残っている、人の感情にへつらうような安っぽい善良さは、最後のひとかけらにいたるまで破壊してやる」
ひとまずJFKの暗殺をにおわせて終わるが、闇は続くようだ。ノワールは深く… 残りの第2作、第3作も楽しみだな。