この方のエッセイと言えば!『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』だけど、旺文社文庫で出会ったのはこちら。
本のタイトル | 想い出のサンフランシスコ想い出のパリ |
著者名 | 石井好子 |
出版社 | 旺文社文庫 |
終戦直後、若い(だけどバツイチ)女性が好きなこと(歌うこと)を求めて海外で奮闘する話は読んでいる方も「(自分も)がんばろう!」という気になる。
Contents
奮闘記だけでなく著名人たちとの付き合いも
ただのエッセイというだけでなく、いろいろな観点で読み応えあり。
<目次>は以下のとおり。
- 想い出のサンフランシスコ
- アイ・ラブ・パリ
- モンマルトルの三百六十五夜
- サーカスに生きた女――山本こよし
- 千年生きることができなかったアルベルト・ジャコメッティ
- 不屈の歌手――ジョセフィン・ベーカー
- あとがき
- パリと好子 朝吹登水子
想い出のサンフランシスコ
ちょっとした教師や知人と、いい関係になったお話もあったりで。だけど、そこで「イエス」と言えない自分の中にある違和感を認識するのは正しい選択だと思う。
私はサンフランシスコの美しい街が好きだった。こんな静かな住みよい街で彼と家庭を築き、波風もたたない、平和な毎日を送って、彼の両親のように年をとっていく、そんな暖かい家庭をもつのを、昔は夢みていたこともあった。このまま残ってしまうのも不可能なことではなかった。
それなのに私はどうしても「イエス」とはいえなかった。
基本「歌うこと」で道を切り開きたいという奮闘記だけど、少し若い女性としての生き方への悩みなども描かれている。うふ。
アイ・ラブ・パリ
最初からシャンソンを目指していたわけではなく、行きついたところがシャンソンだったようだけど…
人生の苦しみを歌った歌手。貧しくて、石だたみの上に寝たこともある人。
その人の歌った「暗い日曜日」を聞いて、自殺した人もいたと聞く、あのしわがれた低い声。私はてっきり、年をとった、疲れきった、暗い感じの女性が現われるものと思っていた。
「暗い日曜日」という映画があったなと、ヨーロッパらしいなと。
千年生きることができなかったアルベルト・ジャコメッティ
ジャコメッティの意外な一面を知った。
矢内原さんは彫刻家の夫妻と食事をするからと誘ってくれたが、約束の八時になっても八時半になっても現われない。
それと、矢内原伊作氏という人物についても。パリでの話は、いろいろな著名人が登場して俄然面白くなった。
あとがき
そして獅子文六の名前が。彼もパリ滞在期があって、かの地に魅了された人だなと。
「ナチュリスト」で歌っていたころ獅子文六先生がパリに来られた。
舞台を見に来て下さったとき、「こんな珍しい経験は誰にも出来ないのだから日記をつけておきなさい。そしていつかそれを書いてごらんなさい」と言われた。
印象的な文章はなかったけど、ジョセフィン・ベーカーの話も(良くも悪くも)人間らしさを感じさせる読み応えある内容だった。
この1冊でした(Amazon)
残念ながら、復刻版は存在しないようだから、こちらを紹介しておく。
未読の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』も興味あるけど、歌手だから個人的にはやっぱり食べ物より歌にまつわる話を読みたいかなと。