重力を感じさせない(つもりの)画像
あいにくピエロの写真はなかったので、重力に逆らっている一枚をば。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「重力ピエロ」
伊坂幸太郎(新潮文庫)
初期の作品とその映画が好き
もはや大御所な作家なのかもしれないが、自分と同年代の伊坂幸太郎氏の作品が好きで、デビュー作「オーデュボンの祈り」から「ゴールデンスランバー」まではほとんど読んで映画も観た(過去形)。
近頃日本モノは昭和以前の作品に惹かれ、伊坂氏のこなれた最近の作品より、ある意味で荒削りの初期作品の方が好きだから遠ざかっている。
しかし、今回はやっぱり好きな思いを表明したいと再読して紹介。
以前読んでいたときには、次々と繰り出される謎とそれを回収するストーリーに引っ張られ、細部を蔑ろ(というより、あまり記憶に残ってない)が改めて読むと、なかなかに細やかな知識?散りばめられていた。
後に私は、岸田劉生の、「道路と土手と塀」と出会うが、その時にも、似た感動を覚えた。つまり、「これは単なる景色じゃない」そう呟きたくなる風景画だったのだ。写真以上に本物だ、と。
この「道路と土手と塀」は自分も感銘!を受け、最近も企画展をみてきたところだ。
さて、自分が思うに、この作品と大きなポイントの一つはこれだと思う。
ピエロが空中ブランコから飛ぶ時、みんな重力のことを忘れているんだ」と続ける彼の言葉はさらに、印象的だった。
ここでの彼とは、主人公兄弟の父(映画では小日向文世!)が発した言葉。
これは主人公家族の置かれた状況が辛辣(言うことや他に与える批評の、きわめて手きびしいさま)にも拘らず、悲観的になる必要はないことをピエロに例える口火であった。続く「地球の重力とピエロ」の章で
「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんてなくなる」
と言う。個人的には、「楽しそうに生きて」と仮定っぽく語るのではなく「楽しく生きていれば」と断定して語って欲しいところ。
家族が抱えている悲観的な問題を前向き思考に変え、やがてそれを解決してくストーリーだけど… 自分はそれを重力に逆らうピエロに例えながら話を進めるところに、伊坂幸太郎作品の魅力を感じている。
それを踏まえ、主人公の弟・春が
春が二階から落ちてきた。
この一文で始まり、終わる。もはや重力は関係なく、映画もここを生かしている。
トリッキーだけど、春は季節ではないのよ。
解説(北上次郎)でも
細部にこそ真実は宿る
と言及するように、ストーリーに引っ張られやすい小説だけど、意外に重要なのは細部だったりもする。
映画はこれ!
伊坂氏も思い入れが強いのか!と妙に納得。映画も小説の良さをよく伝えていると思う。