明治元勲も登場する史実と虚構の混じったミステリー
太平洋側の海はどこも穏やかだなと。
Nikon D7200 with SIGMA 18-300mm
日常生活で荒んだ心(大げさ)に、この穏やかさは染み染み染みる。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「美食探偵」
火坂雅志(角川文庫)
2018年10月13日日経新聞夕刊で紹介
それで、ネットで調べるとこの本ゆかりの邸宅跡が一般公開されているとのことで、のこのこ参加してみた。
この辺りって土地勘乏しいけど、別荘地にいいかなと夢をみるのにいいかなと。
で、内容は神奈川県大磯に構えた別荘族を舞台に、明治維新後の華やかさとグルメを絡ませたミステリー小説。小説素材を上手く配置して伏線張って回収しつつも、わざとらしくならぬよう作者は知恵を絞ったかな?と思う。
楽しく(スイスイ)読める。
- 海から来た女
- 薄荷屋敷
- 消えた大隈
- 冬の鶉
- 滄浪閣異聞(そうろうかくいぶん)
「消えた大隈」は大隈重信、「滄浪閣異聞」は伊藤博文!も登場している。5つの中編?だが、最後の伊藤博文モノが無条件に良かったかな。なので、引用は「滄浪閣異聞」から。
殺された小りんさんは、わたくしの知り合いの、富貴楼お倉さんお抱えの芸妓
主軸は小りんさん殺し。
言ってみれば、富貴楼は政界御用の料亭のハシリ、女将のお倉は明治政府の裏を知る陰の女王のようなものであった。
が、「政界御用の料亭」はストーリーに彩りを添える程度で、ここで富貴楼は舞台にならない。
伊藤博文の屋敷、滄浪閣は東海道ぞいの西小磯にある。
街道の松並木ぞいに、東から西へ向かって
山内豊景(旧、土佐藩山内家)
徳川慶勝(旧、尾張徳川家)
山県有朋(総理大臣)
大隈重信(もと総理大臣)
鍋島直大(旧、佐賀藩鍋島家)
(略)
伊藤博文の邸宅滄浪閣は、鍋島家の東隣り、(略)西隣りは、今年になって新築されたばかりの西園寺公望の別荘、《隣荘》である。
大隈邸と宅滄浪閣を見てきた。
旅好きの自分としては、西行の思うところが気になっている。
心なき身にもあはれは知られけり
鴫立沢の秋の夕暮れ
鴫立沢は「しぎたつさわ」とよむらしい。
小りんさん殺しの重要人物も殺害され、大磯ゆかりであるこの歌が書かれた紙を口に挟んでいる!
「一種の霊地ですね」
「さよう。鴫立沢より少し上流では(略)お産で死んだ妊婦を供養する川灌頂(かわかんじょう)がさかんにおこなわれたものという。西行法師は奥州への旅の途中、鴫立沢の寂しきさまを眺め、つくづく世の無常を感じたのではあるまいか」
この思想が一連の殺人事件解決の手がかりにもなるのだが… と一見単純ではないつくりになっている。ところに、ミステリーの奥深さを感じたよ。突飛にならぬ程度に意外な結末。その意外性に納得性を持たせているのが、作家の技量なんだろうなと。
機会があれば、同じ著者の他の作品も読んでみたい。
鴫立沢はこちらで、少しだけ紹介。
重い(中上健次)の読んでいたので、何だか(良い意味で)軽い気持ちでスイスイ読めた。しかも、実際彼の地も見てきたので。