戦う男たちの空間に思えた
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「ヘミングウェイ全短編1」
~われらの時代・男だけの世界~
高見浩・訳(新潮文庫)
初期の作品で若さ”も”感じた
ヘミングウェイ、好きなんだ。
作品もそうだけど、彼が生きた時代やその生き様とか、彼が追い求めたものやその姿勢に、どことなく魅力を感じている。
自分の幼少時代を投影させたり、試行錯誤の感じが伺える。短編だからこそか、小説の主題の選択やその調理の仕方がヘミングウェイっぽくて、やっぱりいいなと思った。
自分にとってのヘミングウェイっぽいとは、Masculine(男っぽい)な話しも関わらず、最後はホロホロ苦い結末で、幸せと哀しさが表裏一体になっている感じ。
それが、この短編集ではヨーロッパやアメリカの田舎っぽいとこが舞台に綴られていた。
脚本家や監督次第では、大人の映画にできそうな作品が多いと思う。
われらの時代(15章)
10代の少年の目線で綴られた作品集で、いくつか気になった部分は…
- ある訣別
「なんだか、自分のなかがめちゃくちゃになってしまったような気がするんだよ。なぜだかわからないんだけどね、マージ。どう言っていいか、わからないんだけど」
男の子が彼女だった女の子への興味が失せてしまった告白です。切ない。
- クロス・カントリー・スノウ
二人はシュトルーデルを食べて、ワインを干した。
こちらは能天気なスイスでのスキー旅行の一部分で、「シュトルーデル」というアップルパイのようなリンゴのケーキを登場させた点がドイツ語圏らしくて気に入った。
- ぼくの父
でも、ぼくにはわからない。この世の中って、せっかく本気で何かをはじめても、結局、何もあとには残らないみたいだ。
子供にとっては万能にも思える父親の話なのだけど… 最後の最後で呆気なく死んでしまう。
客観的にはせこい父親なので、その死に方は皮肉なのだが、まだ大人にならない少年でこれを悟ってしまうのも、切ない。
北ミシガンで
1編、独立した短編。どちらかと言えば、ちょっと女性の視線で男を語っている。
何もなさそうだけど、冬のミシガンって体験してみたい。
男だけの世界(14編)
こちらは20代っぽい目線での作品集だった。
気になった部分をいくつか紹介すると、
- 敗れざる者
彼は闘牛の用語で考えていた。ときどき、何かを思いついても、それを表わす用語が浮かばずに、うまく考えがまとまらないこともある。直感と知識は自動的に働くのだが、頭脳はゆっくりと言葉の形をとって働くのだ。
闘牛士の話なけど、多分ヘミングウェイの頭の中のことかなと思った。
- 白い象のような山並み
「気が進まないならやらないでほしい、ってことなんだ。そのほうがきみにとって意味があるなら、ぼくは喜んでその事態を受け止めるから」
「あなたにとっても意味があるんじゃない? その場合でもあたしたち、やっていけると思うけど」
(略)
「どうかおねがい、おねがい、おねがい、おねがい、おねがい、おねがいだから、黙ってくれない?」
文庫本9ページの超短編。
これは原文で読んでみたいかな。原題は「Hills Like White Elephants」そのまんまですね。
ちょと似たような経験をしたことがある。
ある決定をするのに、悩む女(女の気持ちは「やる」で決まっているのに悩んでいる)と悩んでいない男(男の本音は「やらないで欲しい」)の微妙に噛み合ってない会話が、スペイン中部の白い山並みが見える駅で交わされる。
男は女の気持ちを反転させたいから、饒舌になる。
この点に共感を得ただけに、これは作者の頭の中での創作ではなく実体験かなと思ったりした。
特に好きな1編だ。
- 殺し屋
「やられると知りながら、ああやってあの部屋で待っているのかと思うと、やりきれないんだ。ぞっとするよ、いくらなんでも」
こちらも、最初はコメディっぽと思いつつ、オチはどうなるのか(殺し屋に殺されるのか、殺されないのか)と思いつつ、締めがこの一文だったところが、秀逸かなと。
読者(自分)の関心をよそのに、著者が語りたかったのは、このことだったんだなと。
この1冊でした
ヘミングウェイ全短編2と3も楽しみであるよ!