「斜陽」太宰治


「斜陽」というタイトルはいい

あまりにも有名な青森県にある太宰治の実家である斜陽館。

ここまで観光地化されると、かつて津島家が生活を営んでいたことを想像するのは難しい。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。

斜陽
太宰治(新潮文庫)

あまりにも有名なので頑張って読む

以前挫折し、今回も挫折しそうだったけど意識的に頑張った。

嫌いな訳ではない。

盗作疑惑も含めて賛否両論ある作品だけど、自分が思うには、各人物とも思い込みが強く、結局それに引きずられて終わることに共感できなかった。とは言え、太宰治もいろんな意味で人生を追い込んでいたことを踏まえると、やはりこれはこれで当時は話題になった作品なのかなと。

早々に主人公の女性は予告を放つ。

ああ、何も一つも包みかくさず、はっきり書きたい。この山荘の安穏は、全部いつわりの、見せかけに過ぎないと、私はひそかに思う時さえあるのだ。

なかなか小説世界に共感を抱けぬまま、阿佐ヶ谷近くに住む自分は妙な描写に出会って、変な親近感を抱く。

「阿佐ヶ谷ですよ、きっと。阿佐ヶ谷駅の北口をまっすぐにいらして、そうですね、一丁半かな? 金物屋さんがありますからね、そこから右へはいって、半丁かな? 柳やという小料理屋がありますからね、先生、このごろは柳やのおステさんと大あつあつで、いりぎたりだ、かなわねえ」

この金物屋さんは今でも営業してます!

www.suginamigaku.org

さて、話は戻って…

ストーリーは太平洋戦争を挟んで没落してゆくセレブ家族の物語ですが、いかんせん生活力がない。

特に戦争帰りの一番頼りにしたい主人公女性の弟は自暴自棄になっている。

「これから東京で生活して行くにはだね、コンチワァ、という軽薄きわまる挨拶が平気で出来るようでなければ、とても駄目だね。いまのわれらに、重厚だの、誠実だの、そんな美徳を要求するのは、首くくりの足を引っぱるようなものだ。(略)あとは、道が三つしか無いんだ、一つは帰農だ、一つは自殺、もう一つは女のヒモさ」

庶民にしてみれば、セレブの没落ほどイタい話はなく、残念?にも逞しく蘇ることもなく弟は自らこの世を去ることにする。

姉さん。
 僕には、希望の地盤が無いんです。さようなら。
 結局、僕の死は、自然死です。人は、思想だけでは、死ねるものでは無いんですから。
(略)
もういちど、さようなら。
姉さん。
僕は、貴族です。

太宰の心境を反映しているのかは不明だけど、「希望の地盤」というのがわかりやすいなと。

しかし、追い込まれた状況にもかかわらず、主人公の女性は未婚の母になる。相手は太宰をモデルにした人物で、この辺が実話&盗作疑惑のある箇所でもある。直治とは、先に自殺する弟。

それは、私の生れた子を、たったいちどでよろしゅうございますから、あなたの奥さまに抱かせていただきたいのです。そうして、その時、私にこう言わせていただきます。
「これは、直治が、或る女のひとに内緒に生ませた子ですの」
(略)
 ご不快でしょうか。ご不快でも、しのんでいただきます。これが捨てられ、忘れかけられた女の唯一の幽かないやがらせと思召し、ぜひお聞きいれのほど願います。

個人的には、こういう発言ってどうかな?と思う。

「幽かないやがらせ」というのもどうかな?と。それならば、どういう結末がいいかな?とつい考えてしまう。

ということで、不燃焼な太宰作品だなと感じているけど、「斜陽」というタイトルはカッコいい。

この1冊でした

斜陽 (新潮文庫)

 

斜陽 (新潮文庫)

  • 作者:太宰 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫