卵ってどうして美味しいのだろう
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「卵をめぐる祖父の戦争」
デイヴィット・ベニオフ(ハヤカワ文庫)
田口俊樹・訳
いかにもロシアっぽいベニオフという苗字、wikipediaによれば
彼の父親はゴールドマンサックスの社長を務めた。 また彼の従兄弟にセールスフォース・ドットコムの創業者であるマーク・ベニオフがいる。
とのこと!
「25時」でスノッブな金融ネタにも詳しいことの合点がいった。
どこまでが実話でどの程度が作り話なのかな?
映画と原作「25時」でディビット・ベニオフが気になり、次の作品はタイトルで気になった。
帯に↓とある。
ナチスドイツ包囲下の都市で青年たちは「卵」の調達を命じられた。
興奮の歴史エンタテイメント
エンタテイメント(=楽しい?)ストーリーなのだろうか?
「25時」はややシリアスだっただけに、それで自分好きなナチスねたで「卵」をめぐる… となれば、読んでみたくて積んであった。
しかし、小説世界に浸れるまでは、少し時間を要した。
主人公は、作者のお祖父ちゃんの若かりしころで、ナチスと対するロシアが小説の舞台だった。この主人公は、ロシア人(ベニオフという響きも少しそれっぽい)でチェスが得意というのが、ポイントとなる。
些細なことから処刑される境地に陥るのだが、同じ境地の楽天的な脱走兵と2人で、処刑を免れるために、物資不足の状況下で卵を1ダース調達してくるよう厳命を受ける。
その楽天家(相棒の脱走兵)を次にように描写する。
わしは昔から寝つきのいい人が羨ましかった。きっとそういう人の脳みそは、わしのよりずっときれいに整理されているんだろう。
ストーリーを引っ張る2人と置かれた境遇を、ユーモアな感じで表現するから、戦争という暗い状況も確かにエンタメ調の雰囲気になる。
最後のどんでん返し?のポイントになる主人公のチェスの技量は、
わしは、どの鍵盤を叩けばいいかはわかっていても、自分ならではの音を奏でることはできない、テクニックだけのピアノ弾きのようなものだった。優れたプレイヤーは自分でも決してうまく説明できない方法で局面を理解する。
と説明される。天才の天才たる所以を簡潔に記された。
結局、卵1ダースは調達できるのだが、結末は…。
ことわざではないが、
「”物事には正しいやり方というものがある”――いかにもドイツ人らしい答だ」
とか、ロシアで言い伝えられる「長く生き延びるための知恵」
「おまえが今言いたいと思ってることだが――言わんほうがいい」そう言って、笑みを浮かべ、わしの頬をそっと叩いた。おそらくはほんとうの情愛に近い思いを込めて。「教えてやろう、友よ、それが長く生き延びるためのひそかな知恵だ」
とかが教訓めいてて、起承転結の結までしっかりまとまってて楽しめた。
やはり「25時」の方が気になるかな、こちらの再読はないかな。それでも「卵をめぐる」というミッションが戦争エンタメとして面白いと思った。
「25時」はこちら。