新潮文庫の順番にならって芥川龍之介作品を読んでる。概ね、初期から晩年で編集されていると思うけど、これは中期で比較的ラインナップが豊富に展開されている1冊かと。いろいろ楽しめる。
本のタイトル | 戯作三昧・一塊の土 |
著者名 | 芥川龍之介 |
出版社 | 新潮文庫 |
画像は「明治開化期もの」の「雛」から妄想されて選んだ1枚。短編の内容はお家没落物語で、その象徴になっているのが高価な雛人形でそれが人手に渡る。まあ、雛は画像くらい気軽に飾れるものが庶民には落ち着く。
豊富なテーマで短編を展開
- 或日の大石内蔵助
- 戯作三昧
- 開化の殺人
- 枯野抄
- 開化の良人
- 舞踏会
- 秋
- 庭
- お富の貞操
- 雛
- あばばばば
- 一塊の土
- 年末の一日
吉田精一氏という芥川研究者による解説を読んで知ったことであるが、芥川龍之介の歴史小説をベースにした短編小説には次のような系統に分類できるらしい。
- 今昔もの
- 切支丹もの
- 王朝もの
- 江戸期もの
- 明治開化期もの
ということで、
「江戸期もの」
- 或日の大石内蔵助
- 戯作三昧
- 枯野抄
「明治開化期もの」
- 開化の殺人
- 開化の良人
- 舞踏会
- お富の貞操
- 雛
残りは「現代に材料をとった佳作」という説明を読み、改めて芥川短編の醍醐味が味わえた気分になった。
今、ちょうど日経新聞夕刊の連載小説が、朝井まかて女史により滝沢馬琴ものだけに、文庫タイトルにもなっている「戯作三昧」を楽しく読めた。
赤穂浪士のある日の心境を描いた「或日の大石内蔵助」にしろ、松尾芭蕉の臨終を描いた「枯野抄」も知ってる史実の具体性を提示され、(大袈裟に言えば)史実から人間性を感じられたかも。
他、裕福なお家の没落物語でもある「雛」や時代や生活の流れに翻弄されつつも調子を合わせて生きてゆく様を描いた「お富の貞操」「あばばばば」「一塊の土」も数ページなのに、余韻が残る感じだった。この一冊に収められた作品は初読みだと思うし、結末も記憶に残りそうだ。
戯作三昧
文庫本で40ページちょっとの内容だけど、十五に別けて書かれている。
しかし読むに従って拙劣な布置と乱脈な文章とは、次第に眼の前に展開して来る。そこには何等の映像をも与えない叙景があった。何等の感激をも含まない詠歎があった。そうして又、何等の理路を辿らない論弁があった。彼が数日を費して書き上げた何回分かの原稿は、今の彼の眼から見ると、悉く無用の饒舌としか思われない。彼は急に、心を刺されるような苦痛を感じた。
文を綴ることを考えさせられるものの、読むことが好きな人(含む自分)は、その練られた文を読むのが幸せ。
この感激を知らないものに、どうして戯作三昧の心境が味到されよう。どうして戯作者の厳かな魂が理解されよう。ここにこを「人生」は、あらゆるその残滓を洗って、まるで新しい鉱石のように、美しく作者の前に、輝いているではないか。
最後の最後では
「困り者だよ。録なお金にもならないのにさ」
お百はこう云って、倅と嫁とを見た。宗伯は聞えないふりをして、答えない。お路も黙って針を運びつづけた。蟋蟀はここでも、書斎でも、変りなく秋を鳴きつくしている。