現東京都墨田区東向島にあったらしい
旧私娼街「玉の井」は自分には場違いな場所だけど、永井荷風らが心を寄せる独特な雰囲気を持つ空間だったのだろうなと。
2020年の今でも、ときに密集した木造建築物が醸し出すラビリンス(迷宮)に出会えるけど、昭和初期のそれらはどういう感じだったのだろう? それも近ごろは観光地化しつつあるのかな? 良いのか悪いのか…。
本のタイトル | 寺島町奇譚(全) |
著者名 | 滝田ゆう |
出版社 | ちくま文庫 |
ガロ作家はつげ義春だけではないよね
wikipedia からの引用でこの漫画を要約してしまうと、次のとおり。
スタンド・バーの息子、少年キヨシを主人公に、その家族や友達、バーの客、近所の住人たち、キヨシの家の飼い猫のタマ、銘酒屋の女や出入りする男たちが織りなす世界を、ユーモアとペーソスがあふれ、風刺のきいた筆致で描き出している。
主人公キヨシは、著者の体験がベースになっているとのことで、少なくとも、似たような世界は実際に存在したんだなと漠然と想像する。
ヘタウマ風(しかし細部は書き込まれ、印象的な心象はシンプル&的確に描かれている)感じの画風に読み応えがあった。細部の書き込みも見惚れるが、自分は線画に惚れる。
太平洋戦争当時の玉の井(東京下町、私娼街)という時代としては厳しい環境なだけに、読後のテンションが上がるものではないけど、当時の雰囲気や情緒がじんわり感じ取れる感覚に引きつけられる。
著者が「はじめに」で語る
不器用なくせに、ややこしい時代に即応して育った少年キヨシは、片や自分以上に辛い苦界に身を没めても、尚且つ、町を愛しつづけたココロやさしきお姐さんたちや、その下町的気風にひかれて、連夜登場してくるこれまたやさしい酔っ払いのおじさんたちになんとも忘れ難いあたたか味に染まって行った。
19作品、600ページ以上、何とも言い難く文で読むのとはまた味わい異なる読書の楽しみ。やっぱり絵が何とも言えない味わいだね。