作家の有馬氏は自分が住む杉並区と所縁のある方だけに、いろんな意味で読んでみたいと思っていた。ちなみに、どういうお方かと言えば.. 旧・筑後国久留米藩主有馬家の第16代当主で、父上にあたる第15代当主は有馬記念の有馬さん。
文庫概要
タイトル | 遺書配達人 |
著者 | 有馬頼義 |
出版社 | 旺文社文庫 |
カバー 東光寺啓
挿絵 東光寺啓
戦争物という内容が内容なだけに… という表紙であるが、意外にも絵本作家として実績ある方のようだ。
内容紹介
概要を文庫の紹介文から引用してしまうと
ひとり大陸から内地に送還されて終戦を迎えた西山上等兵は、戦友との約束を果たすべく十三通の遺書を肌身につけて混乱した敗戦後の日本でひたすら遺族を探し続ける。直木賞作家有馬頼義が戦争への激しい怒りをこめて描いた傑作長編小説。
今の現代日本からは思いつかないテーマ、興味深くそれでいて非常に読み応えがあった。反面、物足りなさも残った…。
- 薄暮の帝国
- 墓の女
- 瓦礫の街
- 焚火
- 拾った女
- 地下の化粧室
- 読みかけの本
- 失速
- 証文
- おんな
- 墓標
- 梓の恋
- 九段の桜
- 受取人なし
「受取人なし」より
「物足りなさ」というのは、ところどころ、著者の力が尽きかけているせいか、ストーリーを追うだけになっている部分や著者のご都合でストーリーが進んでいるところが見受けられた。
それらは、いずれにしても、暗い仕事であった。その仕事の暗さは、やはり、戦争という巨大なエネルギーの犠牲になった、片隅の人生の暗さであった。八年の歳月を費して、その暗さと向かい合って来た私の心も暗い。
(著者の苦労も知らず自分が)偉そうに述べるのは厚かましいけど、ちょっぴりこの暗さを描いてくれれば… と言いつつ、じっさいがっつり描かれたら、怖くて&暗くて、平和ボケしている自分は読了できないかも。
それでいながら、最後にちょっとしたどんでん返しがあり、小説を読む醍醐味を感じさせてくれた。45歳で老兵だから、アラフィフの自分はもう充分老女。
改めて自分の過去を振り替えつつ、若さと老境を実感させてくれたかな。
その百瀬大吉が、自分の子供のような、若い兵隊達と一緒に、死んで行った様を、私は想像することが出来ない。熾烈な戦況の中で、興奮して、死に行ったのは、若い兵隊であり、若い分隊長であり、そして、まだ紅顔の中隊長であったに違いない。四十五歳の老兵百瀬は、その仲間の中で、どんな顔をして、死んだのか。
意外な結末が秀逸だった。
テーマも構成も非常に類を見ないものだけに、少し残念と言えば、やっぱり細部の書き込みが乏しかったかなと。宝くじ当選並みの偶然が続くのであるけど、その偶然が偶然と感じられないような細部を、もう少し読みたくも感じた。
一方、戦後のいくつかの時代性も取り入れられ、時代の混乱も感じさせられたかなと。