洋服と異なり着物は物語になるなとは、常々感じてて、それがストレートに凝縮された1冊だっただけに読むのを楽しみにしていた。
文庫概要
タイトル | 文豪のきもの |
著者 | 近藤富枝 |
出版社 | 河出文庫 |
何だか関係者が多いかなと…
カバーデザイン◎大野ミサ
カバー装画◎マツオヒロミ
カバーフォーマット◎佐々木暁
内容紹介
2008年11月刊行された「文士のきもの」を文庫化に際し、改題、改訂したとのこと。
登場人物が生きた時代は、明治~昭和と幅があるけど、著者を含めて実生活で着物を身にまとっていた人びとであることに説得力があるかなと。ラインナップは下記のとおり。
- はじめに
- 樋口一葉 ―― 一節流れるきものへの執着
- 田村俊子 ―― 妖しさと華麗さと
- 永井荷風 ―― ”時世粧”の女たち
- 谷崎潤一郎 ―― 王朝のみやびを求めて
- 舟橋聖一 ―― 唯美と官能
- 立原正秋 ―― 紬の強さ、愛の強さ
- 川端康成 ―― 「あわれな日本の美しさ」
- 久保田万太郎 ―― 下町の前掛党
- 宇野千代 ―― 男も大切、きものも大切
- 宇野浩二・近松秋江 ―― 作家とモデル
- 長谷川時雨 ―― きものに託した女の運命
- 岡本かの子 ―― きものは人を表す
- 夏目漱石 ―― 文豪の意外な姿
- 幸田文 ―― 血縁のなせる業
- 尾崎紅葉 ―― 装い変われば女も変わる
- 円地文子 ―― さりげなく、やさしく
- 吉屋信子 ―― すがすがしき少女
- 中里恒子 ―― 誰に見せる為でもなく
- おわりに
はじめに
やっぱり着物ネタで始まるには、細々とした描写が重要かと。
忘れられないのはそのころ私がよそゆきに着せられていた縮緬の軽さと染色の美しさである。茶の地色に濃淡で土坡が描かれ、その上に赤や紫の撫子が小さく咲いている元禄袖の袷や、紫地に小萩色で扇面が大きく抜かれ、なかに四季の花が置かれている羽織。まだある。
と続く。しかし、読者の自分には、「縮緬」(ちりめん)という言葉くらいは知っていても、「ちりめん」が意味する価値観の理解が乏しいのが、我ながら残念でもある。着物についても、まずは蘊蓄の理論武装?をしないと楽しめない。
谷崎潤一郎 ―― 王朝のみやびを求めて
ここでは舞台だか映画の「細雪」と比較した著者の感想で、確かに芸術として愛でるより、実生活としての滲みの方が味わい深いなと。
女優さんたちの扮する姉妹たちは美しいが感動は誘わない。谷崎家の姉妹たちの写真に魅かれるものが深いのは、恵美子も含めて似た顔立、似た生活感情、似た教養などから滲み出る重層された何かが呼びかけてくるからである。
何度も谷崎作品を読んでいるけど、これまで自分のなかでなかなか消化できずにいた。だけど、それを解消できそうな一文である。
谷崎が故郷の東京下町を捨て関西趣味に変るのはじつは恋のためではなく、作家としての新しい作風確立のための足がためだったのではなかったか。
ちょう文京区の弥生美術館で開催していた展示も見てきた。展示の企画自体は面白かった!
「谷崎潤一郎をめぐる人々と着物 ~事実も小説も奇なり~」
自分は前衛的な着こなしより、ここでは細雪に象徴されるような雅に豪華なのがいいかなと。もう少しいろいろ谷崎ワールドを攻めようと思う。
吉屋信子 ―― すがすがしき少女
いつも時代も女性エネルギーは爆発的かなと実感させられる一文である。
一方、大正三年には竹久夢二が呉服橋に港屋絵草紙店を出し、これも少女たちのたいへんな人気を集めていた。十代女性のエネルギーがいろいろな場所で爆発をしている稀有な時代だったと思う。
そういうエネルギーって、自分のなかにもやる気を引き起こしてくれる。
この1冊でした(Amazon)
著者の着物や文士たちの話は好きだ。