史実の信長はもちろんなぞられているものの、かなり著者の理想が反映されていそうな信長小説だった。
文庫概要
タイトル | 信長 |
著者 | 坂口安吾 |
出版社 | 旺文社文庫 |
新聞小説だから、挿絵もあったのかな。本書にもところどころ挿絵があり、信長の雰囲気は出ていたけど、顔は私好みではなかった。
内容紹介
2作品収録されていた。
- 信長
- 青い絨毯
解説によれば「信長」は新聞小説が元になっている作品らしい。なるほど、適当な量で章立てされて読み易かった。個人的な感想を述べるとすれば、単純に楽しく読めたけど、歴史小説というよりは、かなり安吾の個人的な思いが投影されているなと。
「青い絨毯」は芥川龍之介の甥にあたる人との、ちょっとした思い出話のような作品。芥川家の一面や坂口安吾の芥川龍之介への感情とかうかがい知れて面白かった。
信長
描かれている期間は、父・信秀の死の直前から桶狭間の戦いまで、つまり信長が尾張で自分の基盤を固める部分。
「珍童独立」から
信長のように自恃の念がキチガイじみて逞しい人間には、彼の真価を否定している言葉、否、言葉の源ほど強烈に胸にくいこむものはない。多分、信長はこう言うだろう。
良い意味で信長を「キチガイ」とか「バカ」と連呼する。一方、ちょと読者をおちょくる?ではないが、不真面目な記載もある。
「マムシ老残」より
「では、伯父上。いよいよ臨終と称して、孫四郎と喜平次をこれへ呼びよせて下さい」
「では、そう致そう」
「念のため申し添えますが、臨終の使いですから、陰気な顔をしていただきたい」
「それは充分に心得ている。臨終の使いと税務署へ行く時は沈んだ顔を致す」
バカはバカなりに利口なもの。バカを見くびると失敗する。
とにかく、バカを良い意味でも悪い意味でも連発していた。
青い絨毯
芥川龍之介の甥と同人誌制作として、芥川家で活動するときの思いを述べている短いエッセイなのだけど
芥川の家は僕の知る文士の家では最もましな住家だけれども、中流以上の家ではない。(略)日当りの良い家だけれども、なぜか陰気で、死の家とはこんなものかと考え、青年客気のあのころですら、暗さを思うと、足のすすまぬ思いがしたものである。
否定的な調子だったけど、龍之介三男もエッセイで触れていたくらいなので、やっぱり間取りがいけなかったのかなと。
この1冊でした(Amazon)
ちょと仰々しい1冊雰囲気ですが…