ヘッダーの画像は2003年12月に訪れた、オランダの首都アムステルダムの1枚で、本作とは全く関係はないのだけど、自分の中で”ヨーロッパをまたにかけて活躍するスパイ”の雰囲気で選んで、フィルターをかけて少し盛ってみた画像。
文庫概要
タイトル | 英国諜報員アシェンデン |
著者 | サマセット・モーム |
訳者 | 金原瑞人 |
出版社 | 新潮文庫 |
内容紹介
ヨーロッパ大陸が険悪だった時代のS・モームによるスパイ小説、面白くないはずがない。スパイものは、まずはイギリス作品を読みたいし、改めてモームの人を見る目と描かれた文章を堪能できた。
それにしても、「面白い小説でなければ意味がない」(というニュアンスの)発言は、うっすら谷崎潤一郎と通じる気脈みたいなものを感じた。
構成は以下の通り。
- 前書き
- 第一章 R
- 第二章 警察の捜査
- 第三章 ミス・キング
- 第四章 ヘアレス・メキシカン
- 第五章 黒い髪の女
- 第六章 ギリシア人のスパイ
- 第七章 パリ旅行
- 第八章 ジュリア・ラツァーリ
- 第九章 グスタフ
- 第十章 裏切り者
- 第十一章 その背後で
- 第十二章 英国大使
- 第十三章 コインの裏表
- 第十四章 シベリア鉄道
- 第十五章 愛とロシア文学
- 第十六章 ハリントンの選択
- 訳者あとがき
- 解説 阿刀田高
前書き
令和の日本に生きる自分はさほど気にしていないが、発表当時の読者には改めて念を押しておかないと、下世話な興味を煽る可能性があったのかなと。
この作品は、戦時中の諜報部での経験にもとづいているが、あくまでもフィクションである。事実というのは語り手には向いていない。でたらめな話を始めて、たいがい本筋に入るまでが長く、気まぐれにあちこちに飛んだかと思えば、尻切れトンボになり、(略)
とは言うものの、個人的には読みながら「ここは(残酷過ぎるから)フィクションであって欲しいな」とか「(こういう巡り合わせってありそうだから)元ネタがあるのでは?」とか、余計な妄想膨らませて楽しんだり。
以上のようなことを書いてきたのは、読者に、この本はフィクションであるということを強調しておきたかったからだ。(略)諜報員の仕事というのは、おおむね非常に退屈なものだ。そしてそのほとんどは役に立たない。小説に使えそうな素材はどれも、断片的でまとまりのないものばかりだ。それを作者が、一貫性があって、ドラマチックで、いかにもありそうなものに仕立てあげなくてはならない。
第一章 R
上司Rから最初に釘を刺されるが、これは割と実際の話ではないかと思ったりする。
「任務につくまえに、ひとこといっておきたい。決して忘れないでくれ。任務を立派に果たしても、だれからも感謝されることはないし、トラブルに巻きこまれても、だれも助けてくれない。いいね」
小心者、平和ボケしている自分には、もはやこのような任務に殉じる人には尊敬の眼差しを向けてしまう。
第七章 パリ旅行
改めて上司Rからドライブを駆けられる訳だが、やっぱりスパイ作戦は心理戦でもあるなと納得しつつ、小説もここから一層ドライブが駆かり緊張感が増す。
「わたしはまだ決めかねていることがある。それは、この種の任務をまかせるのは、やりたくてしょうがない人間か、それとも冷静さを失わない人間か、どちらかということだ。敵を心から憎悪していて、相手を叩きつぶすと個人的なうらみを晴らしたような満足感にひたる人間もいる。いうまでもなくこういった人間はじつによく働く。きみはちがう、そうだろう?(略)」
ちょっとネタバレになるけど、”この種の任務”というのは、ロシア革命に関わるものらしい。任務のスケールも大きくなってくるのは、英国諜報員としてアシェンデンが評価されてきたということね!