Contents
自然主義とは19世紀末フランスで起こった文学運動らしい
自分、このみちの専門家ではないのでwikipedia からの引用だけど
自然の事実を観察し、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する。
まあ「事実は小説よりも奇なり」というので、事実を描いても小説として成り立つのではないかと。日本人では島崎藤村が有名だけど「夜明け前」は好きだ。
さてこのたび、モーパッサン短編集3冊を読むことに。
全360編の中・短篇から65編を厳選し3巻に。
郷土北仏ノルマンディをはじめ、地方に取材した「田舎もの」を集めた第1集。
ということで、まずは第1巻をば。
本のタイトル | モーパッサン短編集Ⅰ |
著者名 | モーパッサン |
訳者名 | 青柳瑞穂 |
出版社 | 新潮文庫 |
訳者はピアニスト・青柳いづみこ女史の祖父(1899〜1971)で、仏文学者、美術評論家、骨董品収集などで有名な方っす。
時代は1880〜1890年だから明治初期
繰り返しになるけど、
第一巻には田舎もの、第二巻には都会もの、第三巻には戦争ものと奇怪ものをそれぞれ収録
とある。楽しみだな。
ラインナップは下記のとおり、どれも本当に短編一幕モノという感じなので、量を感じさせることなく気軽に読める。
- トワーヌ(Toine)
- 酒樽(Le petit fut)
- 田舎娘のはなし(Histoire d’une fille de ferme)
- べロムとっさんのけだもの(Ba bete a maitre Belhomme)
- 紐(La ficelle)
- アンドレの災難(Le mal d’Andre)
- 奇策(Une ruse)
- 目ざめ(Reveil)
- 木靴(Les Sabots)
- 帰郷(Le retour)
- 牧歌(Idylle)
- 旅路(En voyage)
- アマブルじいさん(Le pere Amable)
- 悲恋(Miss Harriet)
- 未亡人(Une veuve)
- クロシュート(Clochette)
- 幸福(Le bonheur)
- 椅子なおしの女(La rempailleuse)
- ジュール叔父(Mon oncle Jules)
- 洗礼(Le bapteme)
- 海上悲話(En mer)
- 田園悲話(Aux champs)
- ピエロ(Pierrot)
- 老人(Le vieux)
牧歌(Idylle)
よくよく読むと、結構エログロナンセンスのギリギリまで攻めている感じがして、笑みすら出てくる。
汽車で乗り合わせた女と男の話であるけど…
乳母になる女は、胸をはだけたまま、息をはずませている。頬はたるみ、眼は曇っている。女はつぶれたような声を出して、言った。
「なんせ、きのうからおっぱいをやらんもんだから、気絶でもしそうに、気がぼんやりしますよ」
若い男はそれに答えなかった。返事のしようがないからであろう。
自分、出産&授乳経験がないけど、乳母になる女は本当に辛いのだろうし、それに対して正常な男であれば返事のしようないよねと。それでいて気づいたら…!!
男はそれに答えずに、もっと味わうため、眼をとじながら、この肉の泉から、せっせと飲みつづけようとしている。
が、女は、男をそっと押しやった。
「もう結構ですよ。たいへんらくになりました。これでやっと生き返ったような気がします」
男は手の甲で口もとをふきながら、立ちあがった。
(略)
「おかみさん、こっちがお礼を言いますよ。この二日、飲まず食わずだったんですから!」
悲恋(Miss Harriet)
自然主義だから事実が大事かもで、作品によってはかなり人生不条理な話も少なくないけど、妙にエロチックな健康美が読んでて少しドキドキさせられる。
こういう田舎娘の情だって、ばかにしたものじゃありませんよ。田舎娘といえども、真心もあれば、色香もありますからね。ほっぺたは、しまっているし、唇なども、新鮮ですからね。だいいち、あの猛烈な接吻ときては、まるで野生の果物のような、きつい、ゆたかな味がしますからね。
田舎田舎とうっすら強調するけど、ならば都会編はどうなの?と興味が高まる。
それにしても、結末は辛(から)い話が多い。作者が皮肉屋だったり辛辣な一面を持ち合わせているのもあるかもだけど、やっぱり現代に比べてむかしの時代は生きるって本当に大変だったんだなと。