一押しは「浮雲」だけど小品も面白い
林芙美子女史の経歴もわからず、自分20代後半に「浮雲」読んだとき、無条件にこのやるせなさに読まされ、すでに3回くらい読んでる。「放浪記」はさほどハマらず、女優・森光子さんの舞台は見てみたいと思っていたら、天国に逝かれてしまった。
短編も機会あったときに読んでいるが、内容をほとんど覚えていないから、また再読できた。
本のタイトル | 風琴と魚の町 |
著者名 | 林芙美子 |
出版社 | 旺文社文庫 |
「風琴と魚」の組み合わせが面白く感じたけど、適当な画像がなかったので、晩菊にちなんで晩(夕方)に撮った菊のヘッダー画像。
タイトルもひねりが効いている
ポエティックな傾向があるかなと。しかし「牡蠣」はなぜこのタイトルか理解できなった。ネットで調べてみると、牡蠣のように「口を開かない(重い)」ことを表現したかったようだ。
ラインナップは以下のとおり。
- 蒼馬を見たり
- 風琴と魚の町
- 魚の序文
- 清貧の書
- 牡蠣
- 麗しき脊髄
- 下町(ダウンタウン)
- あいびき
- 晩菊
- 水仙
清貧の書
林女史の作品をまとめてみれば、「貧乏の描写が緻密」「食べ物の話が具体的」それでいて、女はひ弱いようで図太いと自分の好みが揃っている。
与一との生活に、もっと私に青春があれば、きっと私は初々しい女になったのだろうけれど、いつも野良犬のように食べる事に焦る私である。
下町(ダウンタウン)
この作品は、りよ(子持ちの妻で、戦地から生死不明の夫の帰りを待っている)が、ふとしたことで鶴石(戦地から戻ってみると、妻は他の男と再婚してた)と焦れったいシチュエーションで甘い小説なのだが… 林女史の作品のうちでは、少しほっこりさせる内容だった。
翌る日、りよは、留吉を家に置いて、一人で四ツ木へ出掛けた。子供を連れていないせいかしみじみと独りで鶴石の事を思う自由があった。
あいびき
もう自己陶酔系な作品。嫌いではないけど、少し鼻につく。
洪水のように、皆が、揉みあって歩いて行く……その中を、私も必死になってよろよろとついて行くのだ。幾千の人の顔が、悩み多い姿で浮かんで来る。無意識に前へ押されて進んでゆくより仕方がない……。この恋の為に、自分の生涯が一生埋もれたところで、何の悔いがあるだろう……。
こういうとこ、ロマンチストだな、ポエムかなと思う。どちらかと言えば、好みの作品ではない。
引用はないけど、下記は短編だけど結構パンチが効いてて林女史らしい作品で、評判どおりいいと思った。
- 晩菊
- 水仙
詩「蒼馬を見たり」から始まる前半は、少し物足りなさがあったけど、後半になるにしたがってパンチが効いてくるのは、それだけ作家としての技量が上がったということかな。
この1冊でした(Amazon)
読んだのは旺文社文庫だけど、もう幻の文庫なので、新潮文庫で紹介しておきまする。