知る人ぞ知る、気になるメンバーによる昭和40年代を彷彿させる1冊。
私を育ててくれた旺文社(父親が勤務)に、このような渋い文庫を出す力があったことに驚き。
1969年夏から1970年暮れまでに旅した内容をまとめたものであるが… 自分が生まれる数年前の日本とは思えない。
本のタイトル | つげ義春流れ雲旅 |
写真・文・絵 | つげ義春 |
文 | 大崎紀夫 |
写真 | 北井一夫 |
出版社 | 旺文社文庫 |
むかしの温泉旅行って地味だけど大胆だったなと
現在の雑誌の特集記事のようなテンションの高さはない。著者らが旅した先は次のとおり。
- 下北半島恋し旅(写真・北井/文・大崎)
- 東北湯治場旅(写真・つげ/文・つげ)
- 北陸雪中旅(写真・つげ/文・大崎)
- 四国おへんろ乱れ打ち(写真・つげ/文・大崎)
- 国東半島夢うつつ旅(写真・北井/文・大崎)
- 篠栗札所日暮れ旅(写真・北井/文・大崎)
つげ氏の絵の民族臭?も迫力があるけど、つげ&北井の両氏が撮影した写真も「大正時代」と言っても平成生まれの日本人なら納得してしまいそうな未開ぶり。
下北半島恋し旅(写真・北井/文・大崎)
おばあさんたち、つげ氏を筆頭に若い?男性陣に心惹かれたのだろうか。
ぼくらが初めに話を交わした八人連れのおばあさんたちも、(略)部屋の中へ招き入れ、お茶や山菜料理でもてなしをしてくれた。そして、もし滞在をするつもりなら、自分たちが食事の世話をしてあげてもよいといっていた。
四国おへんろ乱れ打ち(写真・つげ/文・大崎)
どの旅もテンション低く、期待した旅先での出来事は空振りに終わっても、非日常的なものを絵と写真と文で丹念に集めているのが読み応えあり。
夕暮れ時にはお遍路宿の女たちが、まるで江戸時代の宿場町の客引きのようにお遍路のそでをひく、ときいていたので、わたしたちもそんな目にあいたいと思っていたのだが、宿の前には人影もない。
最近ではお遍路旅も観光バスでの団体旅行となり、そのへんのお遍路宿の前をサッと通っていってしまう。
温泉での写真なんて、老若男女が裸体晒して露天温泉を楽しむ様子もそのまま写っている。ちょっとむかし(自分が生まれるちょっと前)まで、田舎の日本人はおおらかに過ごしていたんだなと驚く。もう廃刊となってしまった旺文社文庫では、こういう渋い本に出会える楽しみがある。