ここでの「鮨」は握りではない
鮨好きな自分は(勝手に)「小僧の神様」を思い出し「鮨」につられて手にしたけど、小説の内容は、車中でのお弁当代わりに手土産としてもらった巻き寿司からの出来事が綴られている。「鮨」というより「寿司」ではないか?。
本のタイトル | 鮨 そのほか |
著者名 | 阿川弘之 |
出版社 | 新潮文庫 |
エッセイスト阿川佐和子女史のお父さまで、いずれ「山本五十六」ら大日本帝国海軍提督を描いた3部作を読んでみたいと思っている作家。以前、「末の末っ子」という自身51歳にして生まれた子供のことを題材にした作品を淡淡と読んだことがある。何だか怖いカワイイおじいちゃんなイメージを勝手に抱いてる。
一方、志賀直哉の内弟子でもあり、そういう人間関係を持つ観点からも読んでみたいかななどと。
一体全体どこが「鮨」なのか?
自分にとって謎が少なくない作家なだけに、タイトルにも惹かれて読んでみた。短編小説や随筆、座談会などがまとめられてて、作家の雰囲気が楽しめるかなと。
次にあげる数ページの短編と
- 花がたみ
- 鮨
- 贋々作『猫』
他は雑誌に寄せた類のものかと思うけど、
阿部昭、宮脇俊三、半藤一利、志賀直哉、北杜夫、そして「第三の新人」吉行淳之介、遠藤周作、小島信夫、庄野潤三、三浦朱門らとの関わり合いを楽しく読めた。昭和の作家たち。「あとがき」読むと92歳でまとめた1冊だから、彼の人生を振り返っているようにも読める趣が楽しく読めた理由かもしれない。
さて、他に以下いくつか抜粋をば。
志賀直哉の生活と芸術
こういう話が、自分の志賀直哉への興味を引き立てる。
芥川がある時、
「志賀さんの文章みたいなのは、書きたくても書けない。どうしたらああいう文章が書けるんでせうね」
と、師の漱石に訊ねた。
「文章を書かうと思はずに、思ふままに書くからああいう風に書けるんだらう。俺もああいふのは書けない」
漱石はさう答へたといふ。
「暗夜行路」解説
一度読んだころあるけど… 作品が書かれた背景を知って読むと味わいが変わりそう。むかしは予備知識なしに読んで感じることに意義を感じていたけど、近頃は事情を知って読みたい気持ちが強い。
一つ一つを手に取つて眺めると、極めてリアリスティックで美しく堅固な細片が、上下左右のつながりなぞお構ひなく、かなりちぐはぐに嵌め込んである感じで、時代の推移に沿うた一つの物語として見ようとすると論理的な破綻が生じる、それでゐて、不思議に全体の統一は保たれてをり、読む者に支離滅裂な印象を与へたりはしない、各細片があまりに美しくリアリスティックなせゐかも知れない、そういふ意味であった。
わが友 吉行淳之介
吉行氏をしのぶ談話からだけど、こうして読むと妙に吉行氏を身近に感じる。どれだけ女性を泣かせた?のだろうか。
阿川 ある。嫉妬深いところ、それから残酷なところね。僕も「娼婦の部屋」を読み返してきましたけど、吉行が今あれを書いたら、もう少し削るところがあると思うし、文章も手直しするだろうと思う。文章の成熟度という点では安岡のほうが一と足早かったかもしれんけど、吉行の書くものの中にやっぱりすごい部分はありますよ。
早く「大日本帝国海軍提督3部作」読みたい。