本当に酔いどれな作家だった。
充分な明かりもなく助けてと訴えかけてる雰囲気
収録されている短編に「助けてと訴えかけてる雰囲気」という描写があり、それを狙ってみたが… むしろ楽しそうだ。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「町でいちばんの美女」
チャールズ・ブコウスキー(新潮文庫)
文庫本表紙の写真が印象的だ。藤原新也氏の撮影になるものらしいが、小説世界にぴったりで、せっかくなら自分もこういう写真をここで掲載したいのだが…
予想以上に酔いどれだった
1冊の文庫本に30近い短編が詰まっているが、共通するテーマ(自分が改めて言及するほどではないが)はお酒とセックス。
後半の作品は「ちょっとそれは…」と(自分にとって)受け入れ難いのもあったものの、それはそれで途中までは面白く読めた。オチをもうちょと頑張って欲しかった。が、この玉石混合なあんばいが良いのかも。
タイトル「町でいちばんの美女」にもなっている冒頭の作品は、割に真面目でシリアスだった。途中までは、この作風に通奏するお笑い系だったのに、結末は人生の塩っぱさが滲み出ていた。
それに引き換え、それに続く作品はどうしようもない話をそれなりに楽しく読めた。変に小説にするより、どうしようもない話はそのままリアルの方が笑えるのかも。
例えば
- ファックマシーン
「月についてどうおもう?」と私はトニーにきいた。
「知るかよ」
「そうだな」とインディアン・マイクがいった。「地球のクズは月にいってもクズだよな。かわりっこない」
それは、そうだと納得。
タイトルに数字が出ているのもいい。
- 女3人
女性3人と酔いどれ男性で
私はまず風呂に入った。それから短パン姿で出ていった。脚を見せびらかすのが好きなのである。筋肉がもりあがって、いかにも力強そうにみえる。ほかはたいしたことないが、こういう脚の持ち主はそうざらにいるものではない。私はすりきれた短パンのまま椅子に坐ってテーブルに脚をのせた。
「まあ見てよ、あの脚!」とジェニーがいった。
男の短パン姿の足を、男の予想どおりに盛り上がった女3人が結構笑えるのである。
- 25人のぼろをまとった浮浪者たち
近所への見栄で、わざわざ遠くの日雇い労働へ出かけたにも関わらず、改めて派遣されてみれば、結局自分の住んでいる地域だったというオチ。
各人にそれぞれが印刷物を配達する地域の地図が配られた。私は自分の小さな地図を広げた。ああ、なんてことだ。この馬鹿でかいロスアンジェルスで私が受け持ったのは、こともあろうに自分が住んでいる地区だった!
こういう可愛い小ネタは、頭で考えて出てくるものではない気がするから、きっと実体験に違いないという妙な確信が自分にわき起こった。そして、この手の経験はある人にはあるけど、ない人にはないから、これも著者に備わった一種の才能だと思った。
- かわいい恋愛事件
タイトルも可愛らしく、最初の描写も読者感をそそるものだったが、結末は今ひとつだった。
(略)そのあげく、やっと食料雑貨店で見つけた。ペンキが剥げかかった、黴臭いパンがならんだシケた店だった。電気代が高いものだから、充分な明かりもなく、なにやら助けて、助けて、助けて、と訴えかけてる雰囲気だった。
当記事冒頭の写真は、「助けて、と訴えかけてる雰囲気」を探して撮影したつもりが、やはり、この雰囲気は全くそうでなかった…。
今回は初ブコウスキーだった。
このパルプ(ざら紙を用いた安物の読み物)な雰囲気、嫌いではないから、もう少し長い小説も読んでみたいし、中川五郎氏の訳も気になっている。