2007年春に訪れたとき。昨今ほどインバウンド観光客はいなかったけど… また盛況になる前に静かな金閣寺を見たいな。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
本のタイトル | 金閣寺 |
著者名 | 三島由紀夫 |
出版社 | 新潮文庫 |
これが「三島由紀夫」なのか!を感じられる作品
小説前半に現れる文章が金閣寺の孤高さを予感させ、少し何かに期待したのだが…
戦乱と不安、多くの屍と夥しい(おびただしい)血が、金閣の美を富ますのは自然であった。もともと金閣は不安が建てた建築、一人の将軍を中心にした多くの暗い心の持主が企てた建築だったのだ。
金閣寺の住職でもあり、主人公の動機にとって重要な人物が登場するとストーリーがよじれ出す。このよじれが、主人公の不可解な行動(金閣寺への放火)への道筋として重要なんだなと。
戦争に敗けたからと云って、決して私は不幸なのではなかった。しかし老師のあの満ち足りた幸福そうな顔は気にかかった。
一方、理屈だけでなく、こういう動物的直感な記述も好きだ。
宗教家はそういう風にして信者を嗅ぎだし、禁酒家はそういう風にして同志を嗅ぎだすことを君も承知だろう。
読了してみると、金閣寺の住職であり、主人公父の旧友、自分にとっての保護者でもある住職(老師)が主人公のねじれる心の要因(8割)になっていたのかなと。
私はこの時ほど現世を完全に見捨てた人の顔を見たことがない。生活の細目、金、女、あらゆるものに一々手を汚しながら、これほどに現世を侮蔑している人の顔を見たことがない。
残り2割は、不具(身体の一部に障害を持つ)な友人の存在で…
「どうだ。君の中で何かが壊れたろう。俺は友だちが壊れやすいものを抱いて生きているのを見るに耐えない。俺の親切は、ひたすらそれを壊すことだ」
さすがの三島だけに読み応えはあったものの、正直かなり心のコリは重くなったかも… コロナが収束しない昨今、もう少しコリがほぐれるものを読みたいかも。